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『芳垣祐介原画展』開催記念 鶴巻和哉が「芳垣祐介」を語るインタビューシリーズ(後編)

鶴巻和哉が語る、芳垣祐介の才能「芳垣くんの今後が楽しみです」

「芳垣祐介を語る」シリーズ後編は、GAINAXで芳垣さんの才能を見出した、鶴巻和哉さん。GAINAX入社時から鶴巻監督作品『フリクリ』や『トップをねらえ2!』で感じた、芳垣さんのアニメーターとしての魅力と実力とは? 鶴巻さんが語る、芳垣さんの過去、現在、そして未来。

 

――鶴巻さんは芳垣さんがアニメーターとしてお仕事を始めたころをご存知だったと思います。GAINAXでお仕事を始めたころの彼の印象はどんなものだったか覚えていますか。

鶴巻 彼は動画時代から、仕事以外のスケッチをよくしていて、一枚の動画用紙に15~16点ぐらいの絵をみっしりと隙間なく描いていたのを覚えています。しかも、その落書きがどれもすごく具体的な絵だったんですよ。設定のような立ち姿や表情のアップを描くことが多いですが、芳垣くんの絵は全身が描かれていて、何かの動作をしている絵になっている。言ってしまえば、ひとコマ漫画のように成立していて、演出的な発想を持っている人なんだなと。思えば、GAINAXの入社試験で提出してもらった芳垣くんのスケッチもそういう感じの絵だったような気がしますね。入社試験のときに、それが印象に残っていたんじゃないかと思います。

――芳垣さんのキャラがたくさん描かれたスケッチは、今回の原画展でも展示される予定なのですが、入社当時からそういう絵を描かれていたんですね。20年前から絵の方向性は変わっていない。

鶴巻 アニメの仕事は自分の好きな絵だけを描く仕事ではないので、キャラクターの極端なあおりや顔も描かれてない背中を描かなきゃいけない時もあるし、動物や虫を描かなきゃいけないときもある。芳垣くんは落書きをするときも、いろいろな絵を描いていたから、比較的アニメーターとしての対応力があるんだろうなと思っていました。

――当時、鶴巻さんは芳垣さんに「アニメーターに向いていないかもしれない」とおっしゃったことがあったそうですね。

鶴巻 アニメーターはアニメが好きだから、絵を見ると『機動戦士ガンダム』が好きなんだなとか、ジブリ作品が好きなんだろうなとわかるんです。でも、芳垣くんの絵は「誰とも似ていない」。だから「芳垣くんには好きなアニメがあるのかなあ?」という印象があったんです。新人のアニメーターにはそういう人がたまにいるんですよ。美大出身者で絵を描きたいからアニメーターになった人とか。ただ、芳垣くんは上手かったので、そういう人はアニメーターにならなくても、イラストレーターになっても良いし、漫画家になっても良いと僕は思っていて、そのあたりが気になっていたんです。少なくとも、アニメが好きじゃないとアニメーターはできないでしょう(笑)。

――じゃあ、「アニメーターに向いていないかもしれない」という発言は、芳垣さんの絵を評価したからこそ出た言葉だったと。アニメーターになるうえで「アニメをたくさん見ている人」と「アニメをあまり見ていない人」ではどんな違いがあると思いますか。

鶴巻 アニメをたくさん見ていると、線やフォルムの処理の仕方で「こういうときはこう描くでしょ」という方法論が自然とわかっていたりするんです。たとえば、悲しそうな表情をするときは、こう描いたら良いでしょとか。とくに大きいのは手の描き方かな。指を別々に分けずに、指と指をくっつけてひとかたまりにして描くとワンフォルムで比較的簡単に描けるんですよ。手は難しいんだけど、それを手癖で描けるようになるとラクになるんですよね。芳垣くんは手のスケッチもたくさん描いているけど、それは大事なんです。

――やがて芳垣さんが原画マンになり、鶴巻さんの作品でも活躍されるようになります。鶴巻さんから見て、芳垣さんはどんなアニメーターでしたか?

鶴巻 芳垣くんは落書きを見ていると、アクションが得意……というタイプではないんだろうなとは思っていました。むしろ絵柄だけを見ていると、しっとりした芝居を好きそうな印象があって、情緒的なシーンを受け持ってもらうのが、ふさわしいんじゃないかと思っていたんです。でも、実際に作画をしてもらうと、同期にいた今石くんの影響なのか、動きのタイミングの取り方がトリッキーなんですよね。『トップをねらえ2!』の第1話で原画を描いてもらったときも、そういう一面が出ていたと思います。

――『小さな巨人 ミクロマン』第39話で、芳垣さんが担当された情緒的なシーンがあるんですが、そこでも動きは大胆なスラップスティック調でした。

鶴巻 隣の席に今石くんがいるわけで、影響を受けないわけがない(笑)。同時に、芳垣くんには独特なユーモアのセンスがあるんですよ。『フリクリ』の第2話でハル子の着替えシーンを担当してもらっているんだけど、あそこをパパパッとアクション的な着替えもできたと思うんですよ。でも、あえてじわじわと着替えをすることでギャグになっているんですよね。かなり原画を多めに描いていて、じわじわと着替えを見せる、イジワルっぽいギャグセンスだなと。いわゆるブラックジョークに近いものがあるかなと。

――今石さんは、芳垣さんは「フレームの外で仕事をするアニメーター」だとおっしゃっていました。

鶴巻 ははは(笑)。その感覚は本人に会うとわかるよね。たぶん自分がやりたいことはあるけれど、自分から前に出てアピールするようなタイプじゃない。フレームの外に(そのカットに対する)自分の解釈を描いておいて、演出家が面白がってくれたら、そのフレームの外のものを中に入れてもらえればそれでいい。そういう気持ちなのかもしれないなと思いますね。でも、そうやってカットに対する自分の解釈があるということは、演出向きというか。、芳垣くんが演出をやっても面白いだろうなと思うんですけどね。もちろん、演出という仕事は多くの人とやり取りしなきゃいけないので、そこの大変さを芳垣くんがどう思うかわからないけれど。

――今回、芳垣さんの原画展が開催されることについては、どんな印象がありますか。

鶴巻 個展はやるべきでしょう! 芳垣くんはその名がもっと幅広く知られるべきだと思っていました。高村(和宏)くん、吉成(曜)くん、今石くん、錦織(敦史)くん、すしおくんが注目を集めるようになっているけど、芳垣くんは彼らと並ぶくらいの才能を持っているんだから、代表作が早くあると良いんだけど。こればっかりはなかなか難しいですからね……。アニメの制作の仕組みの中では、芳垣くんのような仕事のやり方はなかなか表に出にくいところあると思う。彼がもし、求められている絵をひたすら描く、いわゆる職人タイプだったら、それなりに早くから注目が集まったと思うんです。でも、彼は、いわゆる職人タイプとはちょっと違う印象があるんですよね。かといって、彼は自分から積極的に絵を発信をするような純粋なクリエイタータイプでもない。だから、これまでは目立ちにくかったですが、今回の個展のようなかたちで、彼の良さや独特なところを直接見てもらうと、その実力や才能を感じてもらえると思っています。

――芳垣さんの今後に期待することがあれば、最後にお聞かせください。

鶴巻 今石くんにとって、芳垣くんは欠くことができないアニメーターになっているわけだし、その実力は間違いないと思います。いまやアニメーターとしての気質が強かった吉成くんが監督を務めるわけですから、次はそろそろ……芳垣くんの番じゃないですかね(笑)。いきなり監督にならなくても、芳垣くんの絵の力を発揮できる作品をすればいいんだと思います。たとえば日本アニメ(ーター)見本市で、雨宮(哲)くんと組んでいた『電光超人グリッドマン boys invent great hero』は良かったよね。芳垣くんの担当はキャラだったと思うんだけど、画面がストイックな感じになっていて、芳垣くんと作品があっているなと思いましたね。これからが楽しみですね。

鶴巻和哉
つるまき・かずや/1966年生まれ、新潟県出身。カラー所属のアニメーション監督。監督作に『新世紀エヴァンゲリオン 』(副監督)、『フリクリ』、『トップをねらえ2! 』、日本アニメ(ーター)見本市『I can Friday by day!』、『龍の歯医者』などがある。

 

取材協力 株式会社カラー
取材・文 志田英邦
撮影 立川政吉

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